
!ユェン・グァンミンさんの作品は、事前知識なしで観たときに自分の中で考えが移り変わるのも魅力だと思いました。(もし知っていたら、それはそれで別の楽しみがあるとは思いますが!)なので、これから観る人で、ネタバレが苦手な方はそっ閉じしてください。もし読んでいただけるようでしたら、お先へどうぞ!
目次
袁廣鳴(ユェン・グァンミン)さんとは
1965年台北(台湾)生まれで、台北(台湾)を拠点に活躍されています
これまでの作品
≪エネルギーの風景≫(2014)
カメラが空中をゆっくりとした動きで移動し,鳥の視点からとらえたさまざまな風景を次々と映し出していきます.廃墟となって雑草に覆われたメリーゴーラウンド,未完のまま廃墟となった集合住宅,台湾南部の沖合の小島にある小学校と放射性廃棄物貯蔵施設,さらには多くの人が集まる海水浴場とその先に見える原子力発電所や風力発電機,原子力発電所の制御室,東京湾沖からの風景といった風景は,作家がドローンや自作のケーブルカムによって撮影したものです.
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/works/landscape-of-energy/
≪微笑む木馬≫(2011)
ディスプレイに映る,木馬に乗った女の子が,木馬を揺らし始めると,木馬と女の子はディスプレイの中で静止しているのに,逆に背景の含まれる映像の画角全体が木馬の揺れに伴って大きく左右に揺さぶられます.じつは木馬の一部と思われていた脚の木製部品はディスプレイの前面に取り付けられて固定されているのです.作品名は,木馬の円弧状の脚が,微笑んでいるように見えることに由来しています.
https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/works/smiling-rocking-horse/
『叫ぶ、故に我あり』(1997)
(すみません、詳しい情報は見つからず…)
トリエンナーレの作品
≪日常演習≫
台湾で1978年より続く、「萬安演習」という防空演習を捉えたもの。
この演習は毎年春先に実施され、日中の30分間人々は屋内へ退避し、自動車やバイクなどの交通も制限されます。台湾の高齢者や外国人にとっては戦争の影を感じさせるものの、若者にとっては毎年の見慣れた行事になってしまい、年代や立場によって受け止め方が異なるようです。台北の最も賑やかな通りを含む5つの場所が無人となった風景は、一見安定した平和な街の日常に潜む戦争の脅威について私たちに考えさせます。
https://aichitriennale.jp/artwork/A20.html
≪トゥモローランド≫
ユートピアの象徴のような遊園地が突然爆破されます。映像は継ぎ目のないループとなっており、まるで現実感の無い、夢のような印象を与えます。
https://aichitriennale.jp/artwork/A20.html
トリエンナーレの様子レポ
≪日常演習≫
今村洋平さんの作品のある部屋からカーテンをくぐると、さきほどの明るい雰囲気がガラっと変わる。
暗い部屋にスクリーン。
ユェンさんのは、映像作品。
ドローンで街中を映したものが流れている。羽音と、サイレンのような音が響いている。なんとなく、不穏な雰囲気。
きっと(予備知識のない)多くの人が感じたのではないかと思うけど、しばらくみていると、何か違和感がある。
…街中に人が、いない。
人の少ない朝方に撮ったにしては、空が明るすぎる気がする…
よくよく見てみると、建物の中、エレベーターに人が乗っているのがみえる。だから模型とかではなく、実際の街中だ。
それと…建物の看板の文字…ここは日本じゃない。
この作品のためにこの状況をつくったにしては撮影の範囲が広く、大がかりすぎる気がした。
ある考えが、頭をよぎる。
「もし戦争で警報がでたら、きっと街中はこんな感じだろうな…」
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と、こんな感じでした!
答え合わせをすると、これは”台湾で1978年より続く、「萬安演習」という防空演習を捉えたもの”とのこと。
やっぱり!と思うと同時に、
すごい映像だったな!と感動すると同時に、
これが、台湾の人達にとっては日常なんだ…
という、漠然とした不安におそわれました。
危機は、「危機だぞ!!」とあからさまにやってくるというよりは、こうして日常に溶け込みながらじわじわとやってくるものなのではないか…
そんな事を考えましたです。
≪トゥモローランド≫
≪トゥモローランド≫も映像作品で、≪日常演習≫の隣の部屋で上映されています。
実をいうと、≪日常演習≫をみている最中から、隣の部屋から爆発音が漏れ聞こえてきます。(この爆発音のおかげで、不穏な印象が増した気がします。計算なのかな…)
それが、この≪トゥモローランド≫の作品の音なんですね。
まず、テーマパーク(ちょっと○ィズニーランドっぽいと思った)のような風景が映し出されています。よく見てみると、ジオラマをアップで写しているような雰囲気。とても精巧にできていて、綺麗です。
そして、この風景の制止映像が、しばらく続きます。
(爆発音は聞こえてきていたので、既に嫌な予感はしています)
あとは…
たぶん皆さんの予想通りです。
轟音とともに、まずは手前のメリーゴーランドがふきとびます。
次は…どういう順番だったか…
観覧車、回転ブランコ、そして城も爆発。鉄骨や、壊れた木馬などが画面ギリギリまで飛んできます。ぶつかる!と思うくらいの臨場感。
爆発音が止むと、チリチリチリ…と灰の落ちる音まで聞こえます。
「そうか、爆発すると、灰が落ちてくるのか…」などと、心臓バクバクしながらも関心してしまいました…
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こちらは、先ほどとはちがって、虚構の世界。だから『萬安演習』のような元ネタはありませんです。(たぶん)
現実と虚構
片方は、実際に起きている日常をありまのままに。
片方は、作り物の世界で、フィクションの出来事を。
だけど、その境はなんなのだろう。
実際に起きていることなのに実感がない(この作品をみるまで、萬安演習の存在も知らなかったわけです)こともある。
フィクションだけど、やけに現実味を帯びていることもある。(たとえば、あの”チリチリ”という灰の落ちる音…)
自分が認識している現実と虚構の境目が、揺らぐ。
そんな経験をした作品でした
